ドキュメント72時間(「朝まで」特番版) の秀逸 |
「ドキュメント72時間」(毎・金・10時55分~11時20分 NHK)
昨日(28-日-)、その「特番」あり。深夜から早朝5時までの約4時間あまり、感銘を受け、ついつい最後まで見入って(魅入って♡)しまった。
「年末スペシャル朝まで!ドキュメント72時間」
発想がおもしろいよね。
いったんそこにキャメラを据えたら、そこで起こるできごとが、なにもおこらない、おもしろい、おもしろくない、そんなことどもに関係なく進行する。
場所はひとつ、時間は三日(72時間)のみ。もうひとつ条件がそろったらそれこそ、フランス古典劇の「三一致の法則」みたい。
生(なま)な感覚が、取捨選択されずに展開されるライヴ感が好き!
東京・初台の、24時間開いている動物病院。ここにいた、痴呆のため捨てられた柴犬の世話をする女性のはなし。これはじつに良かった。
これも深夜営業の新宿の「ネイル・サロン」。ギャルズ・トークがけっこう生々しいかったし……。
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なぞと、べつにすべての回を見たわけでもないのに以前に書いた文章では殊勝に語ってしまったのだったけれど(だから、今回、新たにここに書き直した)、本年度放送分から視聴者リクエストのベスト9本。あらためてその秀逸さに感心している次第。
前記「24時間動物病院」は、やはりベスト入り(第7位)で再放送。観た人は皆、やはりおなじシーンに感銘を受けるみたい。死にかけているハムスターに涙ぐむ息子に「しっかりなさい!」と叱咤する母。その母が数時間後に死ぬハムスターの遺骸をひとりで引き取りにくる。この気丈な母が、おそらく息子に「生に対する愛と生命の大切さ」を教えてくれたであろう動物の死にひとり、涙ぐむ場。新たな視点が生まれる。
ここからはアト・ランダムな感想。関東一円を貫いて走る長大な「国道16線」沿線の東京・栃木・埼玉・千葉近郊のひとびとの往来から、いま現在の日本版の巨大「サヴァ―ビアの憂鬱」が浮き上がってくるさまが実に秀逸だった(「オンザロード 国道16線の『幸福論』;第9位)。
「ベスト枠」ではないけれど、厩舎(広島県・福山競馬場)が閉鎖され職を失った厩舎員のはなし。天塩にかけた老馬。その“彼(名称・ファイトーングラス)が売られていった地方競馬場での“彼”と彼が疾走するレースを飼育係は久しぶりに、それもはじめて応援するために観に来たのだった。老馬のそれまでの成績は芳しくない。がなんと! そのレースで初めての一着ゴールを決めたのだ。馬が自分を見に来た恩人に報いたんだネ。嘘のようなホントのはなし(「高知競馬場に夢が咲く」)。
「どしゃぶりのガソリンスタンド」(第6位)。「なにもおこらない、おもしろい、おもしろくない」なぞと前述していたが、とんでもないワ! よくぞまあ、これだけさまざま人生の縮図を体現する人々が、なんとも“たまたま”、そこを通過するものか!! おもわずため息が漏れる。
そしてリクエスト数第1位。「大病院の小さなコンビニ」。
これも初回を観、感銘を受けたもの。嗚呼、やっぱりネ! あの“栄養ドリンク一気飲み(笑)”(それも2本も)の産婦人科勤務医(遠見才希子さん。30歳)がとにかく魅力的で、彼女ご本人じたいをもういちど見たい、というリクエストも多かった模様(これも皆、感銘を受ける対象が一致するんだネ、の典型例かもしれない)。
病院という場で「“おめでとう”と言うことができる唯一の科」だから愉しい(山田五郎氏曰く、「金言!」)と当直明けに明るく言う彼女が、今度は夜、ふたたび「もう眠るだけだけ」の水をコンビニに買いに訪れ、ここでは「扱うものがあまりに重すぎてよく眠れない。もう4回、号泣した」と彼女が述懐するシーンに、生と死の交錯の現場の実相が反映されていた。
同時にこのことばが、この番組の根底に横たわる通奏低音を、期しくも言語化しているのだった。
なんとも歳の終わりに相応しいような受容体験だった。
http://www4.nhk.or.jp/72hours/